バーフバリ 伝説誕生 (Baahubali: The Beginning) 2015年 国際版138分(テルグ・オリジナル版158分/タミル版159分) *ヒンディー語吹替版予告編? 今でなく此処ではない、遥かなるインドのどこかで… マヒーシュマティ王国辺境部の地下道。矢傷を負い、赤ん坊を抱いて追手から逃げる女性が、大瀑布の激流に身を投じその姿を消す。赤ん坊が、シヴァ神の加護によって守られる事を祈りながら…。 その赤子は、奇跡的に川下の村人たちに助けられ、敬虔なシヴァ信者のサンガによって養育された。彼女に"シヴドゥ"と名付けられた赤子はすくすくと成長し、青年になる頃には、遥か天を貫く大瀑布の大滝を登り詰めたいと言う願望に取り憑かれていく。 ある日、大瀑布を流れ落ちて来た木製の仮面を見つけたシヴドゥは、大滝の上に人…幻影の中で踊る美女…の存在を確信し、幻の導きのまま渾身の力を発揮して長年の夢であった大滝の頂上へと辿り着く。夢にまで見た新天地で彼は、マヒーシュマティ王国を支配するバッラーラデーヴァの兵士たちと戦うゲリラ戦士の中に、幻で見た美女…アヴァンティカーを発見する…。 挿入歌 Dheevara (辛抱強きものよ [貴方の勇敢さが、貴方の前進を導くでしょう]) タイトルは作中に登場する人名だけども、その語義は「豪腕の者」とか。インドの歴史上の司祭にもいる名前だそうだけど、本作とは別に関係ないよう。 「マッキー(Eega)」「あなたがいてこそ(Maryada Ramanna)」などの傑作を世に送り出すテルグ語(*1)映画界の名匠、ラージャマウリ監督による前後編2部構成による歴史大作第1作。2015年を代表する世界的大ヒットインド映画となり、インド映画の持つ底力、その技術力、影響力を世界に見せつけた大傑作である。 2016年に後編となる「Baahubali: The Conclusion(バーフバリ 終譚)」が公開予定と画面でも告知されたものの、いつの間にか2017年公開予定に延期されたよう。 同時制作でタミル語(*2版が製作され、さらにヒンディー語(*3)吹替版、マラヤーラム語(*4)吹替版、フランス語吹替版も順次公開。韓国の釜山国際映画祭やオランダのハーグ・インド映画祭、スペインのシッチェス国際映画祭、台湾の金馬映画祭などなど世界中の映画祭でも上映。その人気は、同じラージャマウリ監督の「マッキー」を越えるテルグ語映画史上最高売上を叩き出し、南インド映画界初の売上600カロール(=60億ルピー)を越える成績を上げた。 日本では、2016年に京都ヒストリカ国際映画祭にて国際版138分バージョンが上映され、翌2017年に一般公開された。 ついに、インド映画の、さらにはその道を突き進むラージャマウリ監督による、ビッグバジェットのファンタジー大作が生み出された! …と言う期待に120%答えてくれる架空歴史活劇でございました。いつか、「ロード・オブ・ザ・リング」をも越えるファンタジー映像をインドも作ってくれると思ってたゼイ。 テルグの常道通り、とにかく映像密度、芝居の濃さ、衣裳や美術セットの華麗さ、ダイナミックなCGが作り上げる状景描写は、とことんまで濃密。ギアナ高地+ナイアガラかって言いたくなる大瀑布の広大さ・長大さもトンデモなければ(*5)、それを人力で登って行くシヴドゥとの大きさの比較、レイアウトの美しさ、抑えた色彩と華麗な色彩との対比も心得たもので、その過剰な映像美が最後まで突き進んでいって、マヒーシュマティ王宮の権謀術策劇、シヴドゥVSゲリラ隊VS王宮軍との戦闘や、後半の指輪戦争もかくやな大規模な合戦劇シークエンスに込められた様々なアイディア、数々の映画ネタを入れたサービス的オマージュとその換骨奪胎具合の洪水は、大画面で見れたなら感涙ものでございますよ。こう言ったファンタジー的大ウソを、なんのてらいもなくカッコ良く見せてくれる映画界なぞ、他にいくつあるでしょう! もはやインドこそが映画の最先端を突き進んでるんだってのが、よくわかる傑作だってばよ! 物語の舞台となるマヒーシュマティ王国は、この映画での架空の国だそうで、ムスリム商人とかも出てくる(*6)事から中世期あたりを想定してるようだけども、マヒーシュマティと言えば叙事詩マハーバーラタや仏典(*7)などで伝えられる、紀元前6〜5世紀頃の北インドに存在した十六大国の1つアヴァンティ国の都市(*8)と伝えられる名前。とは言え、その世界観は特定の歴史上の出来事やインドの地名とは切り離された、古代と中世が混ざり合うラージャマウリ独自のファンタジー・インディアな世界が構築されている(*9)。 序盤の印象的な大瀑布は、ケーララ州にあるアティラッピリィ滝(*10)で撮影したものをCG加工してより広大な舞台に作り替えたものとか。ナショナル・フィルムアワード特殊効果賞を獲得したVFXによる舞台の過剰な"ありえなさ"と"ありえそう"な感覚の混在は、VFXのみによってその映画世界のほとんどを描く「スター・ウォーズ」の作り方にケンカを売ってるよう…? 監督・脚本を務めたS・S・ラージャマウリ(*11)は、アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバードのフィルム・ナーガル(*12)に生まれた映画監督。父親はやはり映画監督兼脚本家のヴィジャイェンドラ・プラサード。親戚にプレイバックシンガー兼音楽コンポーザーのM・M・ケーラヴァニとカルヤーニー・マリク、脚本家のS・S・カンチがいる。 映画監督K・ラーガヴェンドラ・ラーオの元でTVドラマの演出を学び、その協力を得て2001年にJr.NTRを主演に迎えたテルグ語映画「Student No.1」で監督デビュー。続く03年の「Simhadri(シンハドリ)」が大ヒットして名監督の仲間入り。07年の「地獄を盗んだ男(Yamadonga)」でナンディ・アワードの特殊効果賞を獲得したのを皮切りに、「戦士(Magadheera)」「あなたがいてこそ(Maryada Ramanna)」「マッキー(Eega)」と、大ヒット作&映画賞受賞作を連発。10本目の監督作となる本作で、テルグ映画界最大のヒットメーカー監督に登り詰め、16年には国からパドマ・シュリー(*13)が与えられている。 主役シヴドゥ役を演じたのは、1979年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれでアーンドラ・プラデーシュ州の西ゴーダヴァリ県ビーマヴァラム育ちのプラバース(・ラージュー・ウッパラパティ)。 父親は映画プロデューサーのU・スルヤーナラヤーナー・ラージュー。親戚にテルグ語映画界で活躍する映画俳優兼政治家のクリシュナ・ラージューがいる。 2002年のテルグ語映画「Eeshwar(イーシュワル)」で映画&主演デビューしてから、テルグ語映画界で活躍。05年の「Chatrapathi(チャトラパティ)」でラージャマウリ監督作の主役を初めて務め、本作がラージャマウリ映画2本目の出演作となる。 前後編2部作の前編になるからか、そのハイレベルな映像的密度に比べてお話そのものはわりと単純な感じであるけども(*14)、次々変わる舞台を生かしたアクションや恋愛劇、戦闘シーンで目まぐるしく変わる武器や戦略による画面的アイディアの数々や迫力の映像美は見所満載。 同じラージャマウリ監督作の「地獄を盗んだ男(Yamadonga)」や「戦士(Magadheera)」に見える、娯楽映画による神話の再構成・再創造の技も次の段階に入った感じで、ラージャマウリ流叙事詩の誕生を見るかのよう。これまでインドの物語文化を支配して来た神話構造・宗教意識や歴史的・伝統的束縛を取り込みつつ、それを遥か飛び越えてみせるラージャマウリ的世界の構築と娯楽性の発揮具合が、続く後編の映画やその後の作品群にてどう作られて行くことになるのか、期待はいやが上にも高まりまする。 挿入歌 Sivuni Aana
受賞歴
「B:TB」を一言で斬る! ・所々で、画面左下に『C.G.I.』と注意書きが出てくるのは、なにに対する配慮ナノー!
2016.4.8. |
*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。 その娯楽映画界を、俗にトリウッドと言う。 *2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。 *3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。 *4 南インド ケーララ州の公用語。 *5 クリスタニアを思い出した人、手を上げなさい( ・∀・)人(・∀・ )ナカーマ *6 「マッキー」のキッチャ・スディープが商人役でカメオ出演! *7 ディーガ・ニカーヤ=長部経典。 *8 首都? 場所未詳。現マディヤ・プラデーシュ州のナルマダー河畔のどこか。比定地としてマヘーシュワル、マンドラ、マンダータが有力とか。 *9 いちおー、制作側の発表によると9世紀頃のインドを想定してる、って話ですが。 *10 マラヤーラム語映画を始め数々の映画でロケ地として登場。特にマニ・ラトナム映画でよく使われる場所である。 *11 生誕名コドゥリ・スリサイラー・スリ・ラージャマウリ。 *12 トリウッドの製作中心地。現在はテランガーナー州所属。 *13 一般国民に与えられる4番目に権威ある国家栄誉賞。 *14 まあ、映画後半のマヒーシュマティ王国の内部事情のくだりは色々ありますけど。 |